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・自由が丘盆踊りPREP

 緑が丘文化会館にて活動中。

 


ONDO!!会長の狂草書作品集

短編小説  ‘願いを叶える盆踊り’

 

「就活もしなきゃだし、実験も忙しいし、あー遊びたーい」


 都内の山手線。乗車して10分が過ぎているが、ただスマホの画面だけをひたすら触っている。

 LINEで親友の奈美と何気無いやり取り。これが延々と続く。


 彼女は都内の大学理学部に通う3年生。名前は咲希。就活と実験でスケジュールがいっぱい。だが、今日は珍しく夕方、日が沈む前に帰宅できそう。


「最近、ろくに体を動かしてないから、何だかかったるいのよねー肩も凝るし」


 忙しいと発言がネガティブになるのは、若い証拠かもしれない。


月が出た出た 月が出た


 遠くで祭り囃子の音色が聞こえる。


「今日はお祭りの日かぁ。ちっちゃい頃によく盆踊り踊ってたなー」


ふと物思いに耽るも、


「今は忙しいからねー」


と、全ての発言が「忙しい」の序詞となってしまう。


「おネエちゃんも盆踊りかい?」


 突然、法被を着たお爺さんに話し掛けられた。気付けばお祭り会場に至る道を通っていたのだ。


「あ、いえ、帰宅するんですが、たまたま家がこっちの方向なので」


「そうかい。おネエちゃんのような若い子、最近は増えてきてるから、嬉しいよ。もうすぐだから。あ、団扇はあるかい?」


(うーん、おかしいな、私は帰るつもりなんだけど、、)


 老爺も咲希も、お互いに「はっきり言わない」世代なので、意思疏通に失敗したようだ。


(ま、たまにはいいかな)


と、老爺とともに会場に赴く。



「次は大東京音頭です」


 丁度、始まるところで、咲希は輪の中に入った。


人が輪になる 輪が 花になる

 江戸の残り香 ほのぼのとけて

 通う心に 咲き残る


 10年ぶりぐらいに踊ったが、意外とよく踊れた。

 前に踊ったことのある曲が多いし、忘れていても、盆踊りは繰り返しだから、すぐに思い出して踊れる。


 少しずつ踊り手が増えてきた。


(10年前はお年寄りばかりだったけど、何だか若い人が多い感じ。でも知らない子が多いな)

 

 最近は、盆踊りが好きで、地元の盆踊りだけでは飽き足らず、他の地域から遠征して来る人も多い。

 

 咲希は時間を忘れ、2時間踊り続けた。



「おねえちゃん、盆踊り好きなんだなぁ」

 

「久し振りに踊ったら面白くて」

 

「ほっほっほ。。。これ、良かったら行ってごらんな」


と盆踊り大会のチラシを渡された。


‘願いを叶える盆踊り’


「皇居の裏の広場でやってるんだけど、何でも願い事をしながら踊ると、その願いが叶うそうだで」

 咲希は古ぼけた紙の文字を見て驚いた。7月と8月は毎日開催している。


「えー、こんなの知らなかったです。お爺さんは行ったことありま、、、あれ?」


 老爺の姿は既になかった。





 

 

「ただいま~」


 咲希は電灯のスイッチを点けた。家には誰もいない。両親は共働きで、二人とも帰宅は深夜である。


━━━━何でも願い事をしながら踊ると、その願いが叶うそうだで。


 老爺の言葉が耳の奥にこびりついて離れない。

 毎日、予定がいっぱいで何か刺激が欲しかったから、気持ちがすっかりそちらに向いてしまっている。


(でも、皇居の裏のこんな場所に広場なんてあったかな?)


 ネットで調べても全く情報が出てこない。


 紙に描かれた地図を訝しげに見つめ、ベッドに横たわるとそのまま深い眠りについた。


 

 

 翌日は休日であったため、夕方に早速、咲希は地図にあった場所へ来た。


 これは幻ではないかと自分の目を疑った。東京ドームぐらいの大きさの広場があり、人が溢れるように集っていたのである。


「こんな大きなイベントだったんだ! ナミにも教えてあげなきゃ、、、え、まさかの圏外。。」


 渋々スマホを鞄にしまって、踊りの輪の中に入る。


「次はゆかた音頭です。皆さん、願い事を念じてくださいね」


(あ、願い事、願い事、、、うーんと、、考えてなかったよ~、、、えっと、えっと、、、、素敵なカッコイイ彼氏ができますように!)


 とっさの機転ではあったが、実は彼氏は咲希の念願であった。


 勿論、アイドルに理想のタイプはいるのだが、残念ながら咲希の周りには根暗の草食男子しかいないため、今まで一度も‘恋する’と言う経験をしたことがない。


踊る仕草で 言葉はいらぬ

吹くは涼風 恋の風


 渾身の願いを込めて艶やかに団扇を風になびかせる。


(ここにいる人、みんな心に願いを込めて踊っているのかな。何だか素敵ねー)


 願いを込めて盆踊り━━━━━。


 動物の寓話に出てきそうな、ロマンティックな光景。


 一曲が終わり、暫しの休憩。こんなに気持ちよく踊ったのは初めてかもしれない。まだ一曲踊っただけなのに、咲希の額には汗がにじみ出ていた。


「すいません」


 後方から、響きのある男性の声が聞こえた。


「ここ空いてますか」


 振り向こうとした時、櫓の向こうから暖かい風が吹き抜けた。


 あ━━━━━━━


 咲希は自分の胸の鼓動が急激に高まるのを感じた。

 まさに自分が夢に描いていた理想の男性がそこにいたのである。


 そして、今、自分が‘願いを叶える盆踊り’を踊った直後の出会い、と言う偶然が、咲希の運命観を鋭く刺激した。


「後ろで踊ってもいいですか」


「あ、はい」


 自分の頬が赤らんでいることがわかる。咲希は興奮していた。


「次はダンシング・ヒーローです」


 最近では、popsが盆踊り会場でかかることも珍しくなくなった。ダンシング・ヒーローはその代表的な曲。


今夜だけでも シンデレラボーイ

Do you wanna dance tonight


この男性と恋に堕ちたら━━━━━。

この人と━━━━━。


 咲希は無我夢中で踊った。次はチャンチキおけさ

 振り返った時、彼の後ろ姿に目を釘付けにしていた。


「踊り、」


「え、」


彼から声をかけられ、気が気でない咲希。


「踊り、お上手なんですね」


「いえ、あ、はい、あの、、、久し振りに踊って、、そんなに慣れてはいないのですが、、、」


「一緒に踊れて嬉しいです」


 投げ掛けられた瞳に、心の奥底を覗かれているような、とても不思議な感覚━━━━

 

 




 

 一週間後。


「最近さー、サキ、付き合い悪くない? 既読すらつかないし」


「ごめーん、実は彼氏できてさ」


「本当!? え、どんな人?」

 

「あの、この人なんだけど」


 二人で撮ったお気に入りの写真を何枚も見せる。わずか一週間にこんなにも写真があるのは二人が熱い証拠。


「イケメンじゃん!!!! 名前は?」

 

「ケンジって言うの」


「どこで知り合ったの?」


「実は、、、」


咲希は、友人の奈美に、‘願いを叶える盆踊り’の話をした。


「うっそー!? しかも盆踊り!?」


「ナミも行ってみない? 願いが叶うよ」


「うー、ウチは男はしばらくいいや。それより金欠だし、お金持ちになれますように、って踊ってみようかな」


「じゃあ、今日の帰りはどう?」


「今日!? うーん、暇だし、付き合う」


 二人は駅の改札口での待ち合わせを約束し、咲希は彼氏とのLINEに戻る。


(来週はまた彼とデート。ウフ)


 スマホを見つめながら、満面の笑みが溢れた。



 

 

 


「おネエちゃん、願いは叶ったかい?」


「あ、あの時のお爺さん。エへ、叶っちゃいました」


「そうかい、そうかい。そりゃあ良かった。けど、一つだけ言い忘れてたことがあるよ」


「何ですか?」


「‘願いを叶える盆踊り’の最中はな、どんなことがあっても途中で踊りを止めちゃいけないよ。もし止めてしまったら、その願い事と真逆のことが起きてしまうそうな」


「願い事と逆のこと!?、、、大丈夫ですよ! あたし、今まで一度も踊りを途中で止めたことはありませんからね」


 すると奈美からLINEが来て、少し早いけど、もう駅に着いたとのこと。


「あ、もうこんな時間。お爺さん、ありがとうね。またどこかでお会いしましょう」


「気いつけてなぁ」


 咲希が老爺に手を振って背を向けた。


 すると、老爺はゆっくりと空を仰いで、煙のように消えてしまった━━━━━。






「あーごめんごめん」


「サキ、遅ーい」


 二人はいつものやり取りを終え、盆踊りの会場に入る。


「ねーねー、ナミはどんなお願いするの?」


「もちろん、‘お金持ちになれますように’って」」


 奈美の父親は不動産会社を経営しているが、娘には厳しくお小遣いなどほとんどもらえない。奈美は常に金欠と戦っている。


「次は郡上節かわさきです」


 岐阜の踊り。郡上の徹夜踊りは全国的に有名である。


郡上のナー八幡 出ていく時は

雨も降らぬに 袖しぼる


 しかし、この曲は一曲がかなり長い。多くの都内の盆踊りではダイジェスト版を用いているが、‘願いを叶える盆踊り’では、10分弱ある正調が流れている。

 手の少ない所作をひたすら繰り返すため、中には次第に飽きてしまう人もいる。


(あともう少しで終わりね)


 咲希が心で呟くと同時、奈美の怒りが爆発した。


「あー、全く、いつまで踊るの!? まさか徹夜でやるんじゃないよね! もーやってられない!!!」


と、盆踊りを中断して帰ろうとしている。


「あ、ナミ、、、」


「先、帰るから!」


 奈美は踊りの輪から外れ、人混みの中に消えていく。咲希は何か大声で奈美に伝えようとしたが、太鼓の音にかき消された。

 




 

 

「奈美、また休みだよ。LINEも既読つかないし、どうしたのかなぁ? 咲希、何か聞いてない?」


 あの日以来、奈美は音信不通になってしまった。怒っているのかとも思ったが、実は違うようで、他の友人とも連絡がつかないらしい。


「様子が変ね。。わたし、奈美ん家行ってみる!」


「あ、ちょっと、咲希」


 胸騒ぎがする。


(あの盆踊りの帰りに何かあったのかも、事故? まさか。。。)


 電車を乗り継ぎ、過去に2、3度訪れたことのある奈美の自宅へと急いだ。


 息を切らして辿り着くと、そこは空き家になっていた。


━━━━━?


 玄関には「金返せ」と言う貼り紙が沢山貼ってある。これは尋常なことではないと、直感した。


 呆然と立ち尽くす咲希。すると隣に住んでいる御婦人が縁側から声をかけた。


「お知り合いの方?」


 関西訛りで高級品を着飾ってはいるが、どことなく下品な雰囲気があった。


「あ、はい。友達の家で、最近、見かけないから、どうしたのかな、って、、、」


「ここのご主人、借金が回らんようなって、一家で夜逃げしたらしいで。あんたも、あんまり関わらん方がええよ。あ、お金貸してたんかいな?」


「え、いや、お金は貸してないです、、」


(そんな。。。どうして。。)


 咲希は頭の中が真っ白になった。ふと、老爺から言われた言葉が脳裡に浮かんだ。


━━━━━もし止めてしまったら、その願い事と真逆のことが起きてしまうそうな。


(ナミは途中で踊りをやめてしまった。だから、逆のことが起こったんだ、、)


 願い事と逆のこと。すなはち奈美は「お金持ち」を願い、踊りを中断したため、逆の「貧乏」と言う現実を招いてしまったのだ。


 咲希は、事前にその話を奈美にしなかったことを悔やんだ。咲希にとって奈美は唯一無二の親友だったのである。


 親友を失った傷は深い。もはや咲希には心の拠り所となるのはケンジだけである。

 不幸は重なるような気がするのは人の常であり、一度孤独感を抱いた咲希は、奈美とともにケンジもまた、手の届かぬところへ行ってしまうような気がしてならない。


(もしケンジがいなくなったら、、、)


 そんな想像に押し潰されそうになり、躊躇いつつも夕方にはまた、咲希はあの場所へ来ていた。


 

「次は花火音頭です」


(ケンジが一生、そばにいてくれますように!!!)


 曲が流れると、咲希は全身全霊を込めて踊り始めた。


 わずか一週間ではあるが、毎日遅くまでLINEやって、毎晩電話して、毎日会って、夢のような毎日だった。


ずっと一緒にいたい━━━━━。

ずっとケンジと━━━━━━。


日本人なら 祭りだ祭り

花火音頭で 花火音頭で 輪になって


(あと、もう少し、もう少し、、、)


ポツ、ポツポツ、ツツツツ、、、、ザーー


 突然、雨が降り始めた。雨季に催される盆踊りでは、よく雨によって中断されたりする。


ゴロゴロゴロ、、、


雷も鳴ってきた。


日本の花火だ ドンと上がれば

パッと咲かせて、、、

 「えー雨が降ってきましたので一旦中断します」


━━━━━え!?


すぐに老爺の言葉が甦る。


━━━━━もし止めてしまったら、その願い事と真逆のことが起きてしまうそうな。


(ってことは、、、)


 咲希は血の気がひいたように真っ青になり、降りしきる雨にうちひしがれた。「ずっとそばにいる」の逆は「もう離れ離れ」である。もはや海岸絶壁から真っ逆さまに突き落とされるような衝撃を受けた。

 

 全力で係の人に駆け寄り、大声で嘆願する。

「お願いです! 盆踊り、続けてください!!!」

 

「そんなこと言っても、この雨ですし、、、」


 係員は困惑の面持ちで咲希を一瞥すると、逃げるように立ち去った。

 

(どうしよう、、、どうしたらいいの、、、)

 

 その時、視界にあの老爺の姿をみとめた。


(あ、あのお爺さんなら、何か方法を教えてくれるかもしれない!)


 溺れる者は藁をも掴む。

 咲希は老爺に向かって、走り出した。老爺も咲希に気付き、微笑みかける。


 眼と眼が合った。


その時━━━━━━




ガタガターン!




 稲妻が走り、轟音の中、咲希の体が宙に飛んだ。

 視界が朦朧とし、意識が遠くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 


ブーブーブー


 スマホが振動している。


(ここはどこだろう)


 目を開けると、どこか見慣れた光景が広がっていた。


 ここは咲希の部屋である。


(あ、盆踊り)


 ‘願いを叶える盆踊り’の最中に雨が降り、踊りを途中で止めてしまった。

 何とかしなくては、と老爺を見付けたところで落雷に遭ったのだ。その後のことは記憶にない。


(とにかく、もう一度あの場所に行ってみよう)


 皇居の裏の広場に行くと、そこには櫓も何もなく、ただ数人のお年寄りが散歩をしているだけであった。


「あ、あの、お婆さん。ここで盆踊りやってませんでしたか?」


 老婆は目をキョトンとさせ、咲希を見つめた。


「あんたよう知っとるの。確かに盆踊りやっとったよ。でもそれは50年以上も前さ。盛大な祭りじゃったが、GHQの検問に引っ掛かってのう」


 老婆は空を見上げて続けた。


「実はの、その盆踊りを広めたんは死んだワシの爺様だったんじゃよ。法被着ての、‘願いを叶える盆踊り’じゃ言うて若い娘集めて。懐かしいのう」


 すると、突然、咲希のスマホが鳴った。

 

ブーブーブー


「あ、奈美からだ!、、、もしもし? ナミ? 今、どこにいるの!?」


「はい? サキん家の前! ちょっと来て、って言うから来たのにもう1時間も待ってるよ! 何やってるの?」


「え? 家族で夜逃げしたんじゃなかったの? あ、そうだ、私、雷に打たれて」


「なに訳のわかんないこと言ってんの? 早くこっち来て」


「え、あ、、ごめん、すぐ行くから」


 少しずつ思い出してきた。奈美と遊ぶ約束してたような気もする。


(ってことは、あれは夢?)


 それにしてはリアルだったと思いつつ、家へ戻る。


「、、ったく」


 奈美はご機嫌斜めである。


「待ってる間、浴衣の人がいっぱい通ってたけど、何かあるの?」


「あ、今日は近所の神社でお祭りがあるよ」


じゃあそこへ行ってみよう、と二人は神社に行く。


 沢山の屋台、焼きとうもろこし、チョコバナナ、リンゴあめ、金魚すくい、家族連れや子供たち、カップル、高校生がいっぱいだ。


 何気ない日常。でも日常の中にも、意外と身近に非日常の空間はある。

 しかし、やはり年頃の咲希には刺激が足りない。もっと胸をワクワクさせる。心臓の鼓動が高鳴る出来事を欲してしまう。


「あ、盆踊りやってる。ナミも踊る?」


「いや、あたしはいいや。この辺にいるから踊ってきなよ」


 咲希は一人、輪の中に入った。そして数曲踊ったが、何だか物足りず、虚無感だけが残る。


(そうだ。夢で出てきたみたいに、願い事して踊っちゃおっと! そしたら楽しくなるかも、、、えっと、、、素敵なカッコイイ彼氏ができますように)


 咲希は一人、自分に対しニヤッと笑った。やはり願い事はそれしかないのだ。


ゆかた音頭が流れた。


誘い誘われ 総出の祭り

  今夜は浴衣で  ヨイヨイヨイと ひと踊り  


 渾身の願いを込めて艶やかに団扇を風になびかせる。


(願いを込めて踊るのって、やっぱり素敵ねー)


 曲が終わり、暫しの休憩。

 咲希の額には汗がにじみ出ていた。


 

 

 


「すいません」


 

 

 

「ここ、空いてますか」


 

 振り向こうとした時、櫓の向こうから暖かい風が吹き抜けた。


 

━完━


短編小説2 盆踊りタイムトラベル

 

皆さん。私の研究室へようこそ。

 

長年の苦労がやっと実りましたよ。

 

そうです。

人類の夢であった、 時間を往き来する、つまり、タイムトラベルを、ついに、、、

 

ついに実現できるのです。

 

やり方は簡単。

この足袋を見てください。

 

単なる足袋じゃないんです。

この足袋を履いて盆踊りで炭坑節を踊ると、 1周を12年として、進んだ分だけ時間を進めることができる!

 

どうして炭坑節なんだって?

炭坑節は全国どこでもかかりますからね。

なるべくいろんな地域で使えるよう、 炭坑節でプログラムを組んだんです。

 

有効期限は一ヶ月。

一ヶ月経過すると、無理矢理もとの時間に戻されます。

 

どうです?

あなたも使ってみませんか?

簡単に未来に行くことができますよ。フフフ

 

おっと、ついつい忘れておりました。

 

発表に先立って、私の友人に実験としてこの足袋を渡したんです。

 

さて、彼はどうなったか、、、

 



「ここ、空いてますか」


そう言って僕は咲希に話しかけた。


ある町内の盆踊り大会。


ここから僕たちの恋は始まった。


でも咲希には言っていなかった。


自分は過去から来た人間。



一ヶ月で僕は君の前からは消えてしまう。



そして、どうやら咲季は気付いていない。



君と僕との本当の関係を━━━━━


 


8年前。

 

 

僕はある雑貨店でアルバイトをしていた。

 

大学生なら誰でもバイトぐらいする。

 

 

そろそろ佳子さんの来る時間だ。

 

 

佳子さんは今年35歳になるけど、とってもチャーミングで可愛くて、僕の憧れの女性。

 

20歳の時、彼女は留学先で赤ちゃんを身籠った。

 

帰国後、周囲の反対を押し切って女の子を出産。

 

 

大学を中退して、シングルマザーとして、一人で愛する娘を育ててきたそうだ。

 

 

顔に似合わず、芯がある女性━━━

 

 

「ケンジくん、ごめんね。遅くなっちゃって」

 

「いいんですよ。佳子さん。あんまり無理しちゃダメですよ」

 

「ありがとう。ケンジくんは優しいね」

 

 

そんな会話をして、僕たちはお店の仕事をする。

 

 

土日や行事のある時は結構忙しいけど、

 

平日はぶっちゃけ暇。

 

 

やることは佳子さんと四方山話をすることぐらい。

 

・・・好きになるな、って言う方が無理だ。

 

こんな素敵な女性といつも一緒にいたら、気持ちが入っちゃうよ。

 

「佳子さんって本当に可愛いですよね」

 

って言っても、

 

「こんなおばさんに何言ってるの

 

って、取り合ってくれない。

 

 

僕は本気なのに。

 

 

思い切って二人でピアノのコンサートに誘ってみた。

 

佳子さんは照れていたが喜んで来てくれた。

 

帰り道の横断歩道、僕は佳子さんの手を握った。

 

佳子さんの手は温かかった。

 

そして、

 

二人とも目が虚ろになってた━━━━━

 


 

13歳も歳が離れてるなんて信じられないほど、

 

僕と佳子さんはラブラブだ。

 

毎日連絡を取り合ってる。

 

でも、一つだけ問題があって、

 

娘の咲希ちゃんが何て思うかな。

 

中学3年、、、って結構年頃だよな~

 

 

やっぱ、無視されたりするのかなぁ。

 

あぁ、気まずくなりそう。

 

ズシーン

 

と、心に重くのしかかる。。。

 

 

「ケンジ。何悩んでるの?」

 

「咲希ちゃんのことだよ」

 

「やだ。娘に手を出す気!? そんなことしたらブッ飛ばすよ?」

 

「ち、違うよ。僕と佳子さんが付き合ってる、って知ったら、、、やっぱり哀しい気持ちになるかな、って」

 

「うーん、わかんないけど、わざわざ言う必要はないかも」

 

 

とりあえず付き合ってることは咲希ちゃんには内緒にすることにした。



「よぉー! ケンジ! ひっさしぶり!」


「博士じゃん。どうした。ニヤニヤして。また何か発明したのか?」


「イエス! 今回はすごいぞ!」


博士は一応同級生なんだけど、発明オタクで部屋に閉じ籠って、怪しいものばかり作ってる。


髭も伸び放題で、まだ若いのに白髪も増えてきて、とても同い年には見えない。


「ジャジャーン! タイムトラベル足袋!!」


「う、また変なもん発明したな、、」


「これでお前の悩みも解決だ」



「悩みって何だよ」


「咲希ちゃんのこと」


「何で知ってんだよ」



「こんなこともあろうかと君の鞄に盗聴機を仕込んでおいたのさ」


「警察に通報してもいい?」



「そんなことしたら佳子さんとの××××がネットに曝されちゃうぞ?」


「、、、お前、いつかぶっ殺す」


「まあ、そこは置いておいて、咲希ちゃんとの仲を修繕したくはないかい?」


「修繕って、まだ壊れてないから」


「フフフ、愚か者め。中学生の女の子が、ママの恋人に好感を持つ訳がないだろうが」


「うっ、、、じゃ、じゃあ聞くだけ聞こう。どうすればいいんだ?」



「咲希ちゃんと付き合っちゃえ!」



「バカ!中学生だぞ!犯罪じゃねーか」



「そこが君の頭の回転が足りないところだ。このタイムトラベル足袋で未来に行って、大学生の咲希ちゃんと付き合うんだ」



「あー、なるほど!、、って、えぇー!?」


「まあまあ、ママのハートをゲットしたんだから、同じ大学生の咲希ちゃんなら、上手くいくって。ささ、浴衣に着替えて、、、」



と、訳のわかんないうちに浴衣に着替えさせられ、怪しげな足袋を履かされた。


「さ、あそこの公園で小さな盆踊りやってるから、炭坑節を踊れ。そうだなぁ、だいたい8年後ぐらいだから、、、二番が終わった後に、大きい声で「サーノヨイヨイ」って叫ぶんだ!」


「何か恥ずかしいけど、、わかったよ」



そして僕は輪の中に入り、慣れない盆踊りに励んだ。



モグラ陽の目は 苦手だが

山のおいらは 意気なもの

鋪を出るのを 待ちかねて

可愛あの娘が 袖をひく

「さーのよいよい!」


突然、視界が真っ白になり、空間が歪んだ━━━━━

 





━━━━また夢だったのかな。。


'願いを叶える盆踊り'で出逢って。


でも、それは夢だった。


今度は現実に本当に出逢った。


付き合ったと思ったら、


一ヶ月でいなくなっちゃった。


一体、何があったの。


教えてよ。ケンジ━━━━━



「あーこれこれ、そこの乙女よ。汝の名は、、、咲希! 違うかな?」


「え、あの、、はい、、私、咲希って言いいます。どうして私の名前を知っているんですか?」


突然、占い師みたいな人に話し掛けられた。


声は若いんだけど、髭モジャで頭は真っ白。


一目で只者ではない、って感じがした。


「そちの恋人は、、、ケンジ!名前はケンジと言う。そうじゃの?」


「え!?、あ、はい!」


「会いとうはないか?」


「え、あ、会いたいですっ!」


「フフフ。。では、この足袋をプレゼントしよう。今週、家族で旅行へ行くのう?」


「そんなことまでわかるんですね。お爺さんは何者なんですか?」


「フォフォフォ、、単なる占い爺じゃよ」


「旅行は、二泊三日の予定です」


「そこで盆踊り大会に参加しての、その足袋で炭坑節を踊るのじゃ。そして、三番が終わったところで、大きな声で「サーノヨイヨイ」と叫ぶんじゃ」


「・・・サーノヨイヨイ、ですね!わかりました。やってみます!」



 

で、今日がその家族旅行。

 

ぶっちゃけると、私のパパとは血がつながってなくて、ママの再婚相手なの。

 

歳もママより13も若い。

 

私が中学の時から付き合って再婚したけど、

 

正直、あんまり好きになれないでいた。

 

別に嫌いなタイプじゃないんだけどね、、、

やっぱり娘としては距離置いちゃうよ。

 

今日はやたらとニヤニヤしてて気持ち悪いし。。。

 

 

あ、、そろそろ着くみたい。

 

盆踊り、盆踊りっと。

 

あ、やってるやってる!

 

 

「次は炭坑節いきます!」

 

マイクを持った先生がアナウンスすると、皆、クルッと向きを変えた。

 

(あ、時計回りなんだ)

 

いよいよケンジと会える。

 

ケンジと━━━━。

 

ドキドキ。

 

ドキドキ━━━━━。

 

 モグラ陽の目は 苦手だが

山のおいらは 意気なもの

鋪を出るのを 待ちかねて

可愛あの娘が 袖をひく

「サーノヨイヨイ!」

 

そして、咲希の視界は真っ白になり、空間が歪んだ━━━━━

 


 

お気付きの方も多いと思いますが、解説いたしましょう。

 

オホンッ!

 

このタイムトラベル足袋は、反時計回りの炭坑節で使うと、未来に行くことができ、

 

反対に、時計回りの炭坑節で使うと、過去に行くことができる優れものなのです!

 

どうです。稀代の大発明でござんしょ?

 

さてさて、ケンジを追って8年前に遡った咲希ちゃん!

 

果してケンジとの運命は如何に!?

 

、、、あ、ちなみにさっき出てきた占い師は私の仮装ですよ。フフフ





追い掛けるんじゃなかった。。


突然、目の前が真っ白になって、


気付いたら別の世界(?)に来てたの。


そして、ケンジには会えた。


でも、向こうは気付いていないと思う。


遠くで見ただけだから。


女の人と仲良く手をつないで歩いてるところを━━━━━


どういうことだろう?


わたし、振られたの?


それとも、元々二股かけられてたの?


ケンジとの楽しかった毎日。


笑いあった日々。


全てが音をたてて崩れた。


何も考えれない。頭の中は真っ白、、、いや、真っ暗、、かな。。。


ケンジのバカ!ってひっぱたいてやりたいよ。



、、、でも、できない━━━━


ケンジのことやっぱり好き。


裏切られても、好きな気持ちは変わらない━━━━━


そうね。


ケンジにお別れに何かプレゼントしよう。


そっと気付かれないようにして。


短い間だったけど、夢を見させてくれたケンジに。



いろいろ考えて、ネクタイをさりげなく送ることにした。


もうすぐ就活だって言ってたし、身に付けてもらえるものがいいかな。


手紙も同封。


私の名前は書かないよ。


ただ、「ありがとう」ってそれだけ。


でも、密かにネクタイの裏にSってイニシャルいれてもらっちゃった。


私の小さな抵抗。



これで終わり。


私の夏はこれで終わり━━━━━






「ただいま~」



一ヶ月、よくわかんない世界にいたけど、気付いたら戻ってた。



あれも、もしかして夢だったのかなぁ。



願いを叶える盆踊りと言い、今回のことと言い、私は相当疲れてるんだ、きっと。


「咲希?帰ったの?ちょっと今、手が離せないから、そこにあるパパの服、洋服ダンスにしまってくれない?」


たまに家にいると思ったら、すぐにこきつかわれるのよね。


「はーい」


洋服ダンスを開けて、わっ、服がいっぱい。。


溢れてるじゃん。これをどこに入れるのだろう?


あれ?


あの奥のネクタイ、、、


!?


10



フフフ、どうです?


面白い話だったでしょう?


このタイムトラベル足袋を使えば、こんなドラマが生まれるのです。


え?、続きを聞かせろって?


いやー、そろそろ盆踊りに行かなきゃいけない時間なんですよ。


すみませんねぇ。


何はともあれ、この一家はこれから面白いことになりそうです!


ウヒャヒャウヒャヒャ。



と、言う訳で、締めますよ。



盆踊りは真夏のロマンス!


次にときめくのは君だ!


~おしまい~